歯科医師も気を遣う:銀歯の高騰と診療費の改定
ロシアによるウクライナ侵攻により、銀歯の材料費は値上がりし、日本でも治療費が引き上げられることになりました。また、最近は銀歯以外の材料費も高騰しており、自費診療費の改定も相次いでいます。 このような状況下で歯科医院の開業をするのは大変かもしれませんが、どのように対処したら患者に喜んでもらえるのかについて考えてみましょう。 患者にとっても負担増になる季節が来た 歯科受診の際に気になるのが費用。歯科治療費用は思いのほか高額になることがあり、患者にとっても頭の痛いところです。 ところが、ただでさえ負担になりやすい歯科治療の費用で値上げの動きが相次いでいます。どのような動きか、2点ほど取り上げてみましょう。 銀歯の治療費が値上がり 銀歯に使用される歯科用貴金属はパラジウム合金といい、パラジウムの配合率は20%です。パラジウム産出国はロシアで、シェアの約4割を占めます。 ところが、ロシアによるウクライナ侵攻の余波で、パラジウム合金が供給不足になっていて、高騰しています。高騰に伴って歯科医院の仕入れ価格も上昇していますが、公定価格がそれに合わない状況になっていました。 2022年4月に施行された令和4年度診療報酬の改定において、「歯科用貴金属の素材価格変動を踏まえ、変動幅に関わらず、素材価格に応じて年4回改定を行う」等の見直しを行うこととなりました。 これを受け、直近では2022年5月に緊急改定、2022年7月に随時改定が行われ、2022年10月、2023年1月にも改定が予定されています。 直近ではパラジウム合金の高騰により歯科用貴金属の引き上げが緊急改定で2022年5月に、随時改定で2022年7月に行われています。 参考:https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000928336.pdf 大臼歯のFMCを一例に挙げると下表のように改定され、3割負担の患者では負担金が800円以上も引き上がり、なんと5,000円を超えることとなりました。 〜2022年3月 約4,480円 2022年4月〜 約4,690円 2022年5月〜 約4,970円 2022年7月 約5,290円 ※3割負担の場合 銀歯の治療について 銀歯が高騰しても保険診療で費用を抑えたいと仰る患者さまは多くいらっしゃいます。 患者さまに分かりやすく説明するためにもポイントをおさらいしておきましょう。 保険適用の銀歯で使われる材料 保険適用で銀歯に使われる材料は、次のようなものです。 ● パラジウム合金 ● アマルガム ● コバルトクロム合金 パラジウム合金は12%の金に銀や銅、パラジウムなどを合わせたもの。詰め物や被せ物に使います。まず型取りをして作製したら、虫歯のあった場所にセメントで装着します。 次はアマルガムですが、現在ではほとんど使われません。理由は水銀が含まれているから。人体に害があるのでため使われないのですが、セメントなしで装着できることから、劣化がしにくいという特徴があります。 コバルトクロム合金は入れ歯の留め具に使われる材料。とても硬く丈夫なので、入れ歯をしっかり支えます。 価格が高騰しているパラジウム合金について、メリットやデメリットを挙げてみましょう。 パラジウム合金のメリット パラジウム合金のメリットは次のようなものです。 ● 保険適用 ● 硬くて割れにくい ● 細部を再現しやすい パラジウム合金の銀歯には保険が適用され、比較的安価に治療ができます。患者様にとっても負担が軽く、提案がしやすい材料です。 詰め物では2,000円~2,500円くらい、被せ物でも3,500円~4,500円くらいで治療が終わります。治療期間は約1~2週間で、治療回数は2~3回です。神経の治療が含まれる場合は、治療回数・期間・費用ともに増えます。 次に、パラジウム合金の銀歯は硬くて割れにくく、耐久性もあります。一度治療すると長持ちし、当面は患者も通常の生活を続けられます。大きな銀歯をはめ込んでも、割れることはまずありません。 細部を再現しやすいのもパラジウム合金の銀歯の特徴。銀歯を作るときはワックスでしっかり型取りをするので、元の歯に近い形態を再現することができます。 ※掲載価格は、令和4年9月現在の価格です。詳細については、厚労省からの関連する告示・通知等をご確認ください。 パラジウム合金のデメリット 続いて、パラジウム合金のデメリットです。以下のようなデメリットがあります。 ● 見た目がいまいち ● 変形することがある ● 金属アレルギーになることがある ● 歯石や歯垢が付きやすい パラジウム合金の銀歯は見た目が悪いという欠点があります。通常銀歯は臼歯などにはめますが、口を大きく開けたとき、口が大きい方などは、銀歯が目立ってしまいます。 変形することがあるのは困りもの。変形部分からまた虫歯になることもあります。また、変形によってかみ合わせがずれると、不快な思いもしやすいです。 金属アレルギーについては可能性があるというだけで、実際にはそのような症例はあまりありません。それほど気にしなくてもいいデメリットでしょう。 銀歯は金属製なので、静電気が起こりやすいともいえます。その静電気が歯石や歯垢を呼び寄せ、付着することもあるようです。歯石や歯垢は歯周病の原因にもなりますから、患者様にそのような状態がある場合は、除去してあげましょう。 自費治療の改定をする歯科医院が続出 自費治療の改定をする歯科医院も最近増えています。改定といっても安くなるわけではなく、高くなるのですから、これも患者にとっての負担増です。 改定の理由は、消費税増税、金属・技工物・材料費の高騰によるものだとしているケースが多いです。 保険治療だけで済ませようとしている人にとっては関係ないことかもしれませんが、自費治療でより高度な技術を適用してほしいと思っている患者には痛手になります。 ただでさえ高い自費治療なのに、それが値上がりともなれば、利用自体を躊躇する患者も増えるかもしれません。 自費治療をすすめるべきか? 自費治療費を改定する歯科医院が増えていますが、そもそも自費治療を患者にすすめるべきでしょうか。考えてみましょう。 自費治療のメリット まずは自費治療のメリットです。 自費治療では、耐久性に優れた最先端の補綴物を装着することができます。汚れもつきにくく、見た目もよく、変色もしにくいです。 噛む機能においてもしっかりしていて、違和感がありません。 自費治療のデメリット 自費治療のデメリットはやはり費用が高いこと。保険治療では3割負担ですが、自費治療なら10割負担です。患者様にとっては重い負担になりやすいです。 次に、同じ自費治療でも歯科医院により内容や料金に差があります。導入している設備や歯科材料価格、歯科医師の技術も同じでないこと等を考えた治療費を設定する必要があります。 自費治療を勧める場合に大切なこと 患者様に自費治療をすすめる場合は、どのような治療にどのくらいの費用と期間がかかるのかについて明確にし、患者様の納得が得られるまで誠意を尽くして説明することが大切です。 まとめ 2022年に入ってから、歯科材料費の値上げや診療価格改定等のニュースが相次いでいます。 歯科医院の開設を予定している方は、患者様の負担が増えることに配慮しつつ、適切な治療を行えるように準備しておく必要があります。 そこで、この記事では銀歯治療のメリットやデメリット、自費治療のメリット・デメリットなどもご紹介しました。ご参考に、一人ひとりの患者様にとって、より良い治療法をご提案いただけたらと思います。